あれだけできないできないいってたルビーとサファイアのssですが、何とか一本できました。
昔身内向けに書いてたブログにのっけてたものを大幅加筆修正したものなので、ひょっとしたら見覚えあると思われるかも?
なんかルビーとサファイアが既に恋人同士のようにみえますが、書いてる本人は特に考えてません。おい。
暗くてねちっこいサファイアでもどんとこい!というかただけ文字リンククリックでどうぞ(…)
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イノセンス
声が。
声が、聞こえる。
「…ら…いでよ、……ちゃん!」
懐かしい声が、聞こえる。
小さな子供の、声。
「…まってよぉ、……くーん!」
ああ、これはあたしの声だ。
『くん』ということは、あたしが呼びかけてる方の懐かしい声の子は……一人しかいない。”あの人”だ。
…ああ。
また、始まるんだ、あの、夢が。
場面は移る。
移る間に、あのポケモンのおたけび、あたしの悲鳴、あの人の叫び声、鋭い音、あふれる血、匂い、赤、熱、衝撃音。
瞬く間に、五感を一気に襲うそれら。それでもう、何が起こったのか、あたしにはわかる。
夢ではなく、現実にあったことだから。
「…こ、こわいよォ……」
移った場面の中で、幼いあたしは地にへたりこんで、泣いていた。
「ひっく…ひく、ひっく」
泣くな。
弱いあたし、泣くな。
顔を覆うな。下を向くな。上を見上げろ。
あたしをちっぽけな身でありながら必死に守ってくれた、血まみれになってまで守ってくれた、男の子の顔を。
ちゃんと、見ろ。
ちゃんと、目に、焼きつけろ。
「こわい……」
ちがう! ちがうだろう!?
あたしが彼に言わなければいけない言葉はそんなものではない、そんなものではないんだ!!
ああ、弱い。
ちっぽけで、弱い、身なりを気にしてばかりの、引っ込み思案で、何もできない、大切な人を傷つけることしかできなかった、あたしがそこにいる。
ああ、なんて情けないんだろう。腹が立つ、憎い、にく…
「ぃぁあああああああっ!!」
「うわっ!」
サファイアは絹を裂くような悲鳴をあげて、夢から現実へと戻った。
「は、はっ、はっ、はあっ、はあ、はっ、は」
「だ、大丈夫かい、サファイア? ほら、落ち着いて」
自分の身体を包んできたその片腕に、彼女は自然と前のめりに重心を預けた。そして、背中をもう片方の手で撫でられた。
「…はあ、はあ…はあっ、はーっ、は…」
まるで身体を突き破ってくるような勢いで荒れ狂っていた心の波は、やがて少しずつ少しずつ、上下の揺れの幅を縮めていき、少しずつ少しずつ水平になって、落ち着いていって、落ち着いていって……。
そこで、ようやく自分は夢を見ていたのだと認識することができた。それも、頻繁に見るわけではないが、体が弱っていたりするときに見ることの多い夢を。実際は夢ではない、確かにあった情景の夢を。
そこで、サファイアはもうひとつあることに気づいた。
…片腕? 背中を撫でられて?
サファイアは重い頭をゆっくりとあげた。そして、首を横へ動かした。
目に飛び込んできたのは、紅い、でもあの”あかい夢”の色とは違う、深くて優しい色をした球体。その数二つ。
「サファイア?」
紅い眼をした少年は首を傾げて、ぼうっとして自分を見つめる藍(あお)い眼の少女を、不思議そうに見ていた。
「な、な、な…っ」
少女の身体が、声が、かたかた震えて、震えて、
「なして、あんたがあたしの部屋ばおるとおおぉっ?!」
その絶叫は空気を最大限に振るわせた。
そのすぐあとに、それはそれは素晴らしいくらい気持ちよく入ったであろう、どかっ、という打撃音が響いた。間髪入れずに、ぐえっ、という低く鈍い声をおまけにして。
「す、すまんち…」
サファイアは、掛け布団の端をつまみながら、すっかりしょげ込んだ面持ちで、目の前で床に座る紅い眼をした少年――ルビーに申し訳なさそうにそう言った。ルビーは頭…もとい、殴られた箇所を片手で抑えて、彼女を見つめている。
「まったく…。野生児丸出しのキミが、めずらしく風邪で寝込んでいるとオダマキ博士から聞いたから、せっかく見舞いに来てあげたというのに、ずいぶんとAmazingな歓迎をくらったものだよ」
あれだけ強烈に殴られたのもあって、ルビーは、それはそれはうらめしそうに、口の端をひきつらせて言った。
「野生児は余計ったい! …でも…すまんち。心配してくれとったのに…」
「まあ、いいけどね。ただ、ボクはコーディネーターとして常に人目に立つんだから、キズモノにされたら困るんだから、気をつけてよね」
その(彼としてはいつもの調子で言った)何気ない言葉に、サファイアの顔が凍りついた。そして、彼女はある一点を凝視する。
「…サファイア?」
そんなサファイアに一瞬だけ、訝しげな表情をしたルビーだったが、
「…ぁ」
すぐに、その理由に気づいた。失言にもほどがある、と、ルビーは心の中で舌を打つ。思わずごめん、と、言いそうになったが、それは何について謝るのか訳が分からないし、逆効果だろう。
視線を感じる位置、それは。
言うまでもない、自分の額の右端の、”傷痕”。
ここで話題を変えるのは、あまりにもわざとらしい。
そうはわかっていても、変えずにはいられなかった。
「…そういえば、ずいぶんうなされていたけど。何か悪い夢でも見たの? …叫んだりなんかして、さ」
サファイアの部屋のドアをノックしようとしたとき、彼女の苦しそうな声が聞こえた。それが気になって、部屋に入って彼女の寝床に近づいたらあの”歓迎”ぶりだったわけだが。
元々、訊ねようとしたことだったとはいえ、それが更に地雷を踏んだ話題だったとは、ルビーは思いもしなかっただろう。
自分を(正確には、”あの位置”を)強張った表情で見つめていた藍色の眼から、ぽろぽろと、涙が流れ出した。
「さ、サファイアっ?」
さすがにこれには、ルビーもうろたえざるを得なかった。
「ご、ごめんっ…。無理に話さなくて、いい。何も話さなくて…」
月並みな言葉しか、口から出てこない。
というより、何とか気のきいた言葉はないものかと思考したいという思い以上に、サファイアが何故涙を流すのかがわからないという戸惑いの方が、はるかに大きかった。とりあえず、帽子を被って来なかったことを心底後悔することしかできなかった。
いつの日からか、少なくとも彼女の前では必要以上に帽子を被るのはやめよう、と、ルビーは決めていた。帽子は元々好みで被っていたのもあったけれど、やはり”傷痕”を人目に触れるのを防ぐという意味合いが大きかった。
ところが、諸々の事件が一段落してからというもの、帽子を被っているにも関わらず、彼女といるときはいつも必ず、”傷痕”のあたりに彼女の視線が集中しているのを感じていた。彼女の自分に対する罪悪感がこもった、視線を。
それに気がつかないふりをしていたが、彼女に必要以上の後ろめたさを感じさせるのも、嫌だった。
ボクが帽子を常に被るのは、キミには何の落ち度もないんだ、と、言いたかった。しかし、それでは彼女は納得しないだろう。むしろ、ことを荒立てるだけだ。
…そう思ったから、帽子を意識的に被るのをやめたし、今日だって特に何も考えることなく、帽子を被らずにサファイアの様子を見にやって来たのだ。
それなのに、こうして泣かせてしまった。
「けほっ、けほっ」
自責の念でいっぱいいっぱいになっていたルビーを現実から戻したのは、サファイアの咳だった。
そこでようやく、ルビーは少しだけ平静さを取り戻せた。
「サファイア…とにかく、横になって。ただでさえ、風邪で身体が弱っているんだ。あまり、気が落ち込むようなことは、考えない方がいいよ」
「……」
サファイアは無言で、敷き布団に身をゆっくりと横たえた。そして目を閉じる。ルビーは、彼女の乱れ気味の亜麻色の髪を整えるように、撫でる。こちらも無言で。
彼が、この場に留まっていてもいいものかと悩み戸惑っているのが、その指の先から伝わってくるのをサファイアは感じた。しかし、それに対して、傍にいてほしいのかそうでないのかをはっきりと伝えることができなかった。
今は、その彼の優しい温もりが、重くて苦しくてたまらないはずなのに、それなのに、傍にいてほしいという思いも強くて。それこそ、自分勝手にもほどがあると、わかっているのに。
そんな暗澹とした思いが渦巻いているサファイアに対し、ルビーは少しおどけた声で、
「ほら、まだ何か色々と考えてるだろ。シャットダウン、シャットダウン」
と、サファイアの眼を手で覆った。そして、
「しょうがないなあ。キミが眠れるまで、傍にいさせてもらうよ、まったく」
皮肉のような声色に、確かな暖かさをのせて彼は言った。
その声に、鼓動が少し大きく、どくん、と、動いたのを、サファイアは感じた。…顔が熱いのは風邪のせいだ、と、彼女は自分に言い聞かせ、
「…あんまり傍におると、風邪がうつるかもしれんよ…」
ようやく、まともに喋れた。もっとも、その声の調子は、ふてくされていると捉えられても、仕方がないものだったのだが。
それでも彼は、
「大丈夫。家に帰ったら、ちゃんとうがい手洗いするもの。野生児のキミが倒れるくらいの風邪だから、念入りにね」
憎まれ口を叩きながらも、笑って、そう言ってのけてくれた。
目は塞がれていたけれど、その先には確かに彼が笑っているように思えた。塞がれた目が、また熱く潤んだ。
しばらくして、彼女から手をのけてみれば、そこには綺麗で安らかな寝顔があった。わずかに開いた口から覗く八重歯が、愛らしくもどこか扇情的にも思えた。
頬を見やれば、先ほどあの藍色から流れた涙が乾いて跡になっていた。それが何だか、自分がかつて負った傷以上に痛々しくルビーは思えた。
「ねえ、サファイア」
優しく、それでいてどこか決意を秘めた声色で声をかける。
「たとえ…この額の傷痕が消えたとしても、あの日あの時に生じた互いの傷がなくなることは、ないんだよ」
唐突に。
ルビーは、きっぱりと言い放った。
それがあの日の真実(すべて)であり、それ以上もそれ以下もないと、彼は思っていた。
例えば、この額の傷痕。
何の痕跡も残さず綺麗に、それこそ”最初から何も起こらなかった”が如く、完全に治癒できる技術があったとしても。それで、あの事件が夢幻(ゆめまぼろし)になったとしても。過去も、あのとき流した血も涙も叫びも、心の傷もなかったことにはならない。
いや、そもそもそんなことは、彼女も承知の上だろう。それでも、言わずにはいられなかった。
「でもね」
今し方できた、彼女の頬に残る涙の痕跡。それをはっきりと見つめて、彼は言う。
「共にいることが互いの傷をえぐり、互いにもっともっと傷つくことだというのなら、ボクらの関係はとっくの昔にだめになっている。…そうは思わないかい?」
あの日の出来事は、幼い二人のライフスタイルを各々丸ごと変えてしまうまでに、大きなものであった。それほど大きなものを互いに抱いていては、時にそれは重すぎる想いとなってしまうだろう。いつしか、自分の想いが何からくるものだったのか、見失ってしまうほどに。
幸か不幸か、再び出会った二人は互いのことをすっかり忘れていた。だが、その上で再び惹かれ合ったことには変わらないのだ。
それは、もう”あの日”に囚われなくてもいいのだということを示す。…もっとも、それは頭ではわかっていても、割り切るのは非常に困難であることも知っている。ひょっとしたら、一生割り切ることも、乗り越えることもできないことかもしれない。
けれども、困難だとわかっているくらいには子どもではないし、それ以上に、もっとシンプルでかつ強い感情が自分にはあることも知っている。
…今はただ、キミが側にいてくれることが、何よりも――
サファイアの涙の跡に、自然と吸い寄せられるように。
ルビーは顔を近づけて、キスを、そっと一瞬だけ、彼女の瞼に落とした。
唇を離した途端、我に返ったのか、ルビーの頬が一気に火照りだす。
「と、とにかく…その…」
彼女から、もとい自分の今しがたの行為から逃げるように背を向け、口元を抑えて。しどろもどろになりつつも、それでも、はっきりと言い放った。
「ボクから距離を置くとか、そういうことだけは絶対に考えないでよ。そんなことしようもんなら、絶対に、赦(ゆる)さないから」
そう言葉を紡ぐが早く、ルビーは足早にそれでいて眠るサファイアを起こすまいと、静かに部屋を去った。
「……ばか」
彼が部屋から完全に離れていったのを、その鋭利な感覚で察知して。サファイアは目を開けて、ひとりごちた。彼のくちづけの跡に触れてみれば、何故かそこだけひどい熱をもっているように感じた。
柄にも合わない狸寝入りを決め込めたのは、ある意味、彼がくちづけをくれたからであった。緊張と羞恥心で動きようがなかったのだ。こんな時に、こんな所で、初めてのキスがくるなんて思いもしなかった。するわけがなかった。
ひょっとしたら、彼もこちらが実は起きているのを承知であんな意地悪なことをしたのではないか。…それでいて、その優しすぎる本心を、話してくれたのではないか。
それはわからない。わからないが――サファイアはあの日以来、初めて、彼から赦されたと思えた。
いや、そもそも彼は自分を心から憎んでなどいなかっただろう。それでも、おこがましいとは思いつつも、赦された、そう思えた。
それでいて、彼は赦さないと言った。
側から離れることは赦さない、と。こちらの意見もなしに、そもそも離れるなんて一言も言っていないのに、これからも共にいることを一方的に宣言したのだ。ああ、なんて身勝手な男なのだろう。…それでも、不快だと思わないのは、もちろん――
あの人は、優しすぎる。そして、卑怯すぎる。
どうして、あたしなんかのために、そんな…。
どうして、あたしのことを…。
あたしはどうして、こんなに卑怯な人を好きになってしまったのだろう。
優しすぎるって、一番卑怯だ。
彼にも彼女にも共通してるのは、忌まわしい過去だけではない。
それは何よりもシンプルで、純粋な――
End.
+++++++++
こんなんサファイアじゃない!ってお怒りの声が聞こえそうだな思いつつ…;
このssは、以前身内だけに公開していたブログにプロトタイプを載せていたものに大幅に加筆・修正したものです。
彼女が過去を悔いるというか、悩む描写があってもいいんじゃないかなあとおもって、書いた記憶が…基本的にサファイアは元気で明るくてまっすぐな子だし、こういう話は邪道かなあとも思ったりはしたのですが…。
ルビーもなんだか初々しいんだかそうでないのか中途半端ですいません…まあそういうお年頃なのだろうということで(?)
ここまで書いといてなんですが、二人が既に恋人同士かどうかまではさっぱり考えてません、っつうかルビーがちゅうするとか最初に書いたときはさっぱりなかったのに…あ…れ。
ここまでご拝読ありがとうございました!
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